メンテナンス・トライボロジー研究会、創立30周年記念シンポジウムを開催

 日本トライボロジー学会 第3種研究会「メンテナンス・トライボロジー研究会」は3月8日、東京・神楽坂の東京理科大学で、「メンテナンス・トライボロジーの軌跡と次なる飛翔をめざして」をテーマに「創立30周年記念シンポジウム」を開催、約100名が参加した。
会場

 当日はまず、「記念シンポジウムの開催にあたって」と題して、メンテナンス・トライボロジー研究会主査で香川大学 教授の若林利明氏が、東京大学・香川大学名誉教授の木村好次氏が初代主査を務めた同研究会の第1回研究会(1986年開催)に関する回想から、似内昭夫氏、吉岡武雄氏に次いで、自身が2007年から主査を務める同研究会の主な活動実績(日本機械学会や日本設備管理学会との合同研究会開催や「ISO 18436-4に準拠した機械状態監視資格認証制度(トライボロジー)」の創設、シンポジウム開催、学会誌での特集企画、国際会議開催など)について紹介。「創立30周年を迎えた本シンポジウムでは、ますます重要度を増すメンテナンス・トライボロジーの分野におけるこれまでの軌跡を振り返りつつ、次なる飛翔を目指した活発な議論をしていただき、さらなる飛躍、展開につなげていただきたい」と語り、以下の講演に移った。
若林利明氏メンテナンス・トライボロジー研究会主査の若林利明氏

・特別講演(1)「メンテナンス トライボロジーは何処へ向かうのか」東京大学・香川大学名誉教授 木村好次氏…予防保全を表に打ち出した「インダストリアル・インターネット構想」や、予知保全と遠隔支援による総合メンテナンス(スマートメンテナンス)を掲げる「インダストリー4.0」の進展や、それらの基本となる役割を担う機器の遠隔状態監視システムの実用化状況、状態監視を可能にしたトライボロジカル・センサの実用化事例などを紹介。センサの開発や小型化、IoTによるデータ転送の発達といった予知保全に対する環境の劇的変化とともに、どの機械要素の、どの部分で、何を検出し、その情報をどう活用するのかを踏まえたメンテナンスストラテジーの構築について述べた。さらに、日本において保全部門におけるスキル保有者の急減やIoT(モノのインターネット)に抵抗のない世代の増加など、メンテナンスの選択の自由度が増え態様が変化する中で、「メンテナンスを支えるトライボロジーのあり方を考えるべき」と強調した。
木村好次氏木村好次氏

・特別講演(2)「メンテナンス・トライボロジーについて考える-研究会への提案-」トライボロジーアドバイザー 似内昭夫氏…“トライボロジーの成果を有効に活用し、また信頼性工学の手法を取り入れて、機械設備の企画・設計・製造・運用を行うのがメンテナンス・トライボロジーである”というメンテナンス・トライボロジー(MT)の概念図(AREA MAP)の作製とそれに対する議論の提案を行ったほか、MT技術の継承という課題に対し「ISO 18436-4に準拠した機械状態監視資格認証制度(トライボロジー)」を創設した成果などについて語った。また、MTの学問的な体系化とそのカリキュラムの作成などについて提案。「“Science for society”を意識したMT活動を進めることで、一人でも多くの現場の技術者がトライボロジーの効能・価値を認識理解してもらえるようにしたい」と述べた。

 そのほか、一般講演として、以下の話題提供があった。

・「メンテナンストライボロジーにおけるAE研究の歴史と動向」埼玉工業大学 長谷亜蘭氏…固体の破壊・破壊の際に放射される弾性波(AE)をとらえることで異常を早期に検出できる研究の歴史を概説したほか、機械システムのIoT化・スマート化の促進とともに第2次ブームに突入したAE研究の動向について解説した。AE計測を用いたトライボロジー現象の評価・診断を目的に、AE信号と凝着摩耗、アブレシブ摩耗というトライボロジー現象との紐づけが重要として実験を実施した結果や考察について述べた。今後、トライボロジー現象とAE信号パラメータとの相関を体系化してAE計測の検出精度を向上させ、機械システムのIoT化・スマート化に向けた診断・評価手法の確立を目指すとした。
長谷亜蘭氏長谷亜蘭氏

・「回転軸の高確度AE計測と高精信号解析」富山大学 小熊規泰氏…状態監視保全では異常検知の即時性と正確性が求められるが、即時性が可能なAE計測では機械・電気ノイズの混入や距離・界面減衰、反射・干渉といった問題があり、さらなる正確性が求められていた。これに対し、高確度計測を実現する「電磁誘導式ワイヤレスAEセンサ」を開発、回転軸に装着することで早期のリアルタイム検出と疲労寿命予測の可能性があるとした。また、AE信号の高精度解析という観点から非調波解析(NHA)法を適用した結果、RF信号内の特性周波数とその変動を視覚的に認識できるようになったことを報告した。

・「非線形超音波法による接触型損傷の検知」京都工芸繊維大学 増田 新氏…弾性波の超音波伝播に伴う非線形現象、特に接触音響非線形性を利用した非破壊検査法、損傷検知法(非線形超音波法、非線形圧電インピーダンス変調法、周波数down-conversionの利用など)について紹介した。また、接触・摩擦・潤滑の評価事例や、動的機械要素への適用事例などを紹介した。

・「潤滑油の新還元添加剤による自動車と産業機械用における合成油寿命延長の考察」崇城大学 里永憲昭氏…エンジンやトランスミッション、デファレンシャルギヤ向けの自動車用潤滑油の潤滑性能改善や、産業機械の潤滑、摩耗、摩擦の改善のために、2次的合成添加剤としてポリオールエステル、ジエステル系と植物油系エステルなどを主成分とした独自の新還元法添加剤を開発。この新還元添加剤が自動車用添加剤や産業機械用添加剤のトライボロジー性能に及ぼす影響を化学的作用と実用試験などによって確認したほか、新還元添加剤の添加割合に対する粘性評価や寿命評価の解析方法を検討した。

・「表面テクスチャリングの特性と使い方」産業技術総合研究所 是永 敦氏…レーザやエッチング、ショットブラストなどの各種加工法によって機能性表面を創成する「表面テクスチャリング」の最適設計やメカニズム解明などの研究動向や、すべり案内面への適用事例を紹介した。表面テクスチャリングのメリットとして、材料や潤滑油を変えずにトライボ特性を改善できることや、表面テクスチャ(表面粗さやうねりなどの表面性状)とトライボ特性をつなぐツールとなることを挙げたほか、初期なじみを良くすることでその後の機械のライフサイクルを延長するというメンテナンス・トライボロジーへの貢献についても紹介した。

・「プロアクティブ・メンテナンスとトライボロジー」福井大学 本田知己氏…故障の根本原因を排除または許容レベルに維持して設備の劣化遅延や長寿命化を目指す保全方式「プロアクティブ・メンテナンス」の研究を紹介。根本原因を知るため、実機での潤滑油の劣化状態を調べ、それを参考に作製した模擬劣化油の中で摩擦摩耗試験を実施、潤滑油の劣化と摩耗現象との関係を調べた。根本原因を捉えるため、実機油と模擬劣化油の汚染粒子数をISO清浄度コードで整理、メンブランパッチの色パラメータとの関係を調べ、劣化関連物質をより詳細に簡便に捉える方法を検討した。根本原因を取り除くため、酸化し消耗した酸化防止剤を連続還元することで、結果として油の劣化物質を減らす方法を検討した。

 このほかに、「記念シンポジウムに寄せて」と題し、日本機械学会「診断・メンテナンス技術に関する研究会」主査の大阪市立大学 川合忠雄氏と日本設備管理学会「最新設備診断技術の実用性に関する研究会」主査の三重大学 陣山 鵬氏から祝辞が寄せられた。

 講演終了後、挨拶に立った同研究会幹事の新日鐵住金・藤井 彰氏は、「本日のテーマでもある“メンテナンス・トライボロジーの次なる飛翔を目指して”、今後も研究会のメンバー、メンテナンスに関わる方々とともに、最適なメンテナンスのあり方について考えていきたい」と呼びかけ、これをもってシンポジウムは閉会した。
藤井彰氏藤井 彰氏