TTRFと大豊工業、自動車のトライボロジーで第4回国際シンポジウムを開催

 大豊工業トライボロジー研究財団(TTRF)と大豊工業は4月16日、名古屋市の名古屋国際会議場で「TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2019」を開催、約200名が参加した。

kat19050900開催のようす

 「トライボロジーの自動車社会への貢献」を全体テーマに掲げる同シンポジウムは、トライボロジー研究の進展と自動車技術への応用等に関しトップレベルの情報を交換するとともに、この分野での産学連携の現状と将来の可能性を示しその強化を図ることを目的に、2016年から開催されている。4回目となる今回は 、「Tribology Technologies for the Evolution of Powertrain Part Ⅱ」のテーマのもとで開催された。

 当日は開会の挨拶に立った杉原功一実行委員長(大豊工業社長)が、「大豊工業は曾田範宗先生、木村好次先生をはじめアカデミアの多くのトライボロジー研究者の指導を受けながら、トライボロジーをコア技術として、マイクログルーブ軸受や樹脂コーティング軸受といった先進エンジンベアリングを世に送り出してきた。TTRFは、当社が多くの恩恵を受けてきたトライボロジーの研究開発支援と啓蒙に寄与する目的で2000年に設立。以来、2018年度までに81のトライボロジーの研究テーマに対し180万USドルの助成を行っている。今後も、アカデミアとインダストリーのコラボレーションの強化によって、さらなるトライボロジー研究の活性化を支援していきたい。自動車業界は現在、電動化、燃料電池、自動運転などに向けた100年に一度といわれる大変革の只中にあるが、異業種も参入しサービスを含めたグローバル競争が激化する中で、劇的な構造変化が求められ、トライボロジーの課題も非常に厳しいものとなっている。こうした中では、産学連携の強化によるトライボロジー技術の一層の高度化が課題解決のソリューションとなると考えている。本日も、アカデミアとインダストリーの両者の活発なディスカッションを通じて、トライボロジー研究開発の促進に寄与できればと期待している」と述べた。

kat19050901杉原 氏

 続いて、Kenneth G. Holmberg氏(VTT Tech. Research C. Finland)をチェアマンに、以下のとおり基調講演が行われた。

「Technology Trends of Passenger Car Engines: Past, Present and Future」村木一雄氏(日産自動車)…現在までのCO2削減・省燃費化に向けた乗用車のエンジン技術について概説。トレンドはWLTP・ RDE規制を考慮して、ダウンサイジング・ターボチャージングからライトサイジングに移行し、VW 1.5L I4では、高圧縮比でロングストロークのミラーサイクル燃焼と、可変タービンジオメトリーのターボチャージャーが適用されていることなどを紹介した。また、日産ではe-POWERというゼロエミッション(バッテリーEV)とVCR(可変圧縮比エンジン)という内燃機関の進化の両方に対応したサスティナブルな技術を有していると述べた。さらに将来の乗用車用エンジン技術としては、熱効率の一層の改善には、熱損失や排気損失の低減および回収が重要で、熱効率を高めるためのリーンバーンや超ロングストローク、燃焼室の遮熱、など様々なエンジン構造の研究開発が進んでいることを報告。CO2排出量ネットゼロを目指すうえでは、高い熱効率の達成だけでは不充分で、バイオ燃料や合成燃料などカーボンニュートラルな燃料の研究もキーとなるであろうと結言した。

kat19050902村木 氏

「Research on Reduction of Friction Loss of Internal Combustion Engine in SIP Innovative Combustion Technology and Research System of Industry-University Collaboration after 2019」三原雄司氏(東京都市大学)…2050年時点でも乗用車の半数以上でエンジンが搭載される(HEV・PHEVを含む)と予測されることから内燃機関の熱効率技術がますます重要で、産学官連携による乗用車内燃機関の共同研究が必要との観点からSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「革新的燃焼技術(高効率内燃機関の研究)」が2014年から始まり、正味熱効率が約38%の市販の4気筒エンジンを対象として各損失の低減を進め2018年度までに約50%の熱効率達成を目指して活動を開始している。同氏がグループリーダーを務める機械摩擦損失低減グループの取組みとして、単気筒浮動ライナーエンジンでの摩擦低減効果の研究や内容、クランク-軸受系のしゅう動面積低減による摩擦平均有効圧力(FMEP)低減効果の研究などを紹介した。さらに、次世代エンジンに関する今後の産学官研究の動向と体制などについて紹介した。

kat19050903三原 氏

 続いて、佐野敏成氏(トヨタ自動車)をチェアマンに、潤滑油(Lubricants)をテーマとするセッションが以下のとおり行われた。

「Motor Cooling Oil for Hybrid Vehicle & Electric Vehicle」岩井利晃氏(出光興産)…HEV/EV用モータの効率を高める冷却オイルではモータ・インバーターの冷却と電気絶縁性、ベアリングやギヤの潤滑性が主に要求されるが、それぞれの性能について評価した。粘度が低いほど冷却性能は改善され、鉱油では高粘度指数(高VI)基油であるほうが冷却性能に優れる結果となった。PAOやエステル油などの合成油は、高VI基油の鉱油よりも、さらに優れた冷却性能を示した。蒸発時の潜熱を利用することで、冷却性能はより改善された。しかしながら、冷却デバイスごとの冷却オイルの撹拌状態の違いで熱伝達率に違いが出たり、循環システムにおいて気泡が混じることで冷却性能が低下することがあるため、実際の冷却デバイスにおいて冷却性能をチェックする必要があると述べた。

kat19050904岩井 氏

「Lubricant Challenges for Driveline Electrification」Walter Bunting氏(BP)…ドライブトレインの電動化に伴う潤滑油の課題として、フリクションの制御や電動モータの保護、ギヤの保護などが必要として、要求される電気伝導性/電気抵抗特性に対しては温度/粘度変化に対応する基油や粘度指数向上剤、導電性を構成する各種添加剤などを最適化する必要があると説明した。導電性と誘電正接(誘電体内での電気エネルギー損失の度合いを表す数値、tan δ)の関係としては、導電性が低いほどtan δが低い値をとり、好ましいとした。また、電動トランスミッション用フルードに対する今後の要求性能として、銅板適合性、熱容量および熱伝導性、電動モータのワイヤーコーティングとして用いられるポリアミドイミド(PAI)など各種樹脂材料との適合性、温度・酸化安定性、電動モータなど高速回転におけるせん断および気泡の挙動などを挙げ説明した。

kat19050905Bunting 氏

 また、是永 敦氏(産業技術総合研究所)をチェアマンに、設計(Design)をテーマとするセッションが以下のとおり行われた。

「Technique for Reducing Friction of Piston Rings」臼井美幸樹氏(リケン)…リング外周形状や表面改質の設計によってフリクションの低減が可能であることを解説。オイルリングの外周形状としてテーパー形状を適用すること、また、リングの表面改質を選定することによって摩耗後も適切なプロファイルを保持することが有効とした。また、リング全セットでの摩擦に及ぼすレールODプロファイルの影響や表面改質とエンジンオイル種別の適合性などを確認する必要があると述べた。シリンダーの表面粗さは摩擦への影響が大きく、鏡面仕上げがシリンダーに適用される際にはリングの表面粗さとの組み合わせもより重要になってくる。摩耗性能・スカッフ性能が低ピストン速度時に低下する可能性がある際には、設計に注意を払う必要があると結言した。

kat19050906臼井 氏

「Friction Reduction in Internal Combustion Engines through Laser Surface Texturing」Sorin-Cristian Vladescu氏(Imperial College London)…各種のテクスチャを施したジャーナルベアリングについてin-Situで往復動試験を実施、摩擦係数や油膜厚さなどを計測し、テクスチャの効果を考察した。特に油膜厚さの薄い混合・境界潤滑下においてオイル溜まりを形成するテクスチャの効果が大きく、特にレーザーで形成したテクスチャはオイル消費量の精密な制御性にも優れる。実際のエンジンのジャーナルベアリングに最適なテクスチャとしてディンプルをしゅう動面全面に施したところ、平均して18%のフリクション低減が認められたと述べた。

kat19050907Vladescu 氏

 さらに、三田修三氏(東京都市大学)をチェアマンに、材料(Materials)をテーマとするセッションが以下のとおり行われた。

「SHINAYAKA Polymers for Automobile」伊藤耕三氏(東京大学)…同氏がプログラム・マネージャーを務めるImPACTプログラム「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」では、AGC、三菱ケミカル、ブリヂストン、東レ、住友化学と、ポリマー化学、ポリマー物理、ポリマーの加工・理論・シミュレーションの第一線の研究者とのコラボレーションによって、従来の限界を超えた、薄くても破れにくい、衝撃を受けても壊れにくい革新的素材「しなやかなタフポリマー」を創出し、日産自動車によってシステムとしての総合評価および耐久性評価がなされている。また、しなやかなタフポリマーを用いたコンセプトカーが東レ・カーボンマジックによって製作され、総重量850㎏、最高速度142km/hを実現している。本プログラムにおいてキーテクノロジーとなる、架橋点が自由に動く高分子材「スライドリング・マテリアル:SRM」は高い破壊エネルギーを示すとともに、高い熱伝導率を持つエラストマーや高い衝撃強さを持つ樹脂材料として適用できることなどを提示した。

kat19050908伊藤 氏

「Technical Trends of Resin Coating for Engine Bearings」神谷 周氏(大豊工業)…エンジンベアリングの固体潤滑オーバーレイではさらなる低フリクション化と異物混入下での耐焼付き性向上が要求されている。これに対して、低フリクション化では、二硫化モリブデン(MoS2)を増量するとともに、高強度ポリアミドイミド(PAI)樹脂をバインダーに採用した固体潤滑オーバーレイを新開発。軸受単体試験の結果、-15%(流体潤滑領域)~-50%(混合潤滑領域)の低フリクション化が、エンジン試験では-1.3kPa(2000rpm時)~-2.9kPa(6000rpm時)のFMEP低減が認められた。また、異物混入下での耐焼付き性向上では、PAIをバインダーとしつつ、MoS2を減量してBaSO4を追加した固体潤滑オーバーレイを新開発。軸受単体試験の結果、現行の固体潤滑オーバーレイに比べて3倍の焼付き限界荷重(高さ40μm時)を示した。

kat19050909神谷 氏

 講演終了後は、鈴木徹志氏(大豊工業 専務)が挨拶に立ち、「今回のセッションでは、トライボロジーを構成する潤滑・設計・材料、つまりLuDeMaをテーマに産官学で活発な議論がなされた。大豊工業はこれまで、トライボロジーの恩恵を多々享受してきたが、皆様にその恩返しをしていくためにも、このシンポジウムを継続しレベルアップを図っていき、産官学の連携をより強固なものにしていく一助とできれば、うれしい」と述べて、シンポジウムは閉会した。

kat19050910鈴木 氏